lalala sunshine

〜慶應文学部を通信教育過程で卒業しました〜

特定の街の歴史を知る


ハワイご飯で夏を乗り切る。

きっかけは、食事に誘ってもらったことだった。食べログポイントが高い、安くて人気のお店だよとお誘いがあり、自分では行かないエリアなので出かけていった。大阪の南側は(私にとっては)未開の地の感じがあるのだけど、指定された駅を降りたところでまず、雰囲気が違うことに気がついた。昼間なのにコンビニの前で座り込んでお酒を飲んでいる人、歩いていると頻繁に目にする、安宿や生活保護申請援助の案内。日常とかけ離れた世界という感じだった。食事を終えてお茶する場所まで散歩がてら歩いていると、一見、映画のセットのような、戦前の雰囲気の、同じような作りの建物が延々と並んでいるところに入ってきた。同行の知人の話を聞きながら、よくよくまわりを見てみると、「ホントだ!いる!」。昼間だし、男性の知人が複数同行しているので怖くはなかったけれど、そのような地に足を踏み入れることが初めてのため、結構な衝撃でした。そして同時に、どんなところなのかとても知りたくなりました。

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

その街について何冊か本が出ていたので、そのうちの一冊として同書をピックアップしました。街が出来上がった経緯、裏方を含めてそこで働く人々について、著者が10年以上かけて自身で取材し、ルポルタージュで書き記されていました。読後の感想としてはとにかく「強烈」の一言です。チャールズ皇太子もかつて言っていたように、人間の最古の職業ではあるのでしょうけど、人としての尊厳を奪う仕事でもある。よほどのことがないと実際にそれを職業として選ぶという思考回路にはならないのではないだろうか。それにもかかわらず、100年以上延々と続いてきているのだから、大なり小なり常に成り手はいるということなのでしょう。
同書によれば、そこで働く女性たちの主な理由は、今も昔も貧困と教育の欠如だという。かつては、家族を食べさせるために地方から売られてきた。明日食べるお米の心配をしなければならないような生活の中で、娘が出稼ぎに出てくれることで他の家族が救われる構図があったらしい。映画や小説ではない、リアルにそのような時代があったのだ。在学中に、日本史、特に近代史を取らずに卒業してしまったことが悔やまれる。
また、教育については、昔であれば尋常小学校でほんの数年勉強した後、女工をしているみたいな感じであったし、現在は昔ほどの悲壮感を持って自分の意に反して働きに来る人は少数派みたいだけど、教育程度は(一部例外はあれど)中卒や高校中退が多いようだった。その先の教育を受ける機会がなかったり、機会を断ってしまうというのは、女性を取り巻く家庭環境も影響しているのだろう。その意味ではそこで働く女性の背景は、今も昔も変わらないのかもしれない。

そのエリアからは一本の道路を隔てて高層マンションやショッピングセンターを見ることができたのだが、その日、その道路を渡ると「日常に返ってきた」という気がした。それくらい不思議な、ある種の淫靡さとか魔力みたいなものを発している雰囲気のあるところだった。しかし、私が来る場所ではないとつくづく思った。