lalala sunshine

〜慶應文学部を通信教育過程で卒業しました〜

『知の旅への誘い』

ちょっと前に学友がtwitterで言っていた本を、タイトルに惹かれて読んでみました。
知の旅への誘い (岩波新書)

20代の頃に少しバックパッカー的な旅(旅行ではなく、旅!)をしたことがあるからか、まず、このタイトルにノックアウトされた感じがしました。人生を旅に例えるというのはよくあることだけど、確かに同書を読んで、「知」についても同様のことが言えるのだなぁと感慨深いところがありました。心に引っかかった部分を少し引用、感想を記しておこうと思います。

「旅が面白いのは、行った先で思いがけない物事に出会って、出かける前の当初の目論見とはまるで違った関心を持つようになったり、かなり違ったところに足を延ばして深入りするようになったりすることがあるからである。(中略)歩いていておのずと見えてくるものに対して目をふさがず、見えてきたものに強く心を惹かれれば、それに深入りすることも恐れるべきではない、というのである。おのずと見えてくるなどというと、積極的、意識的に見ることに比べて、受動的、消極的な態度だと思う人もいるだろう。しかし実際には、意識的にものを見ようとすると、かえって、見ようと思ったその角度だけから一義的にしかものを見ることができない。もっといえば、その時見られるものは冷ややかに対象化されて、一義的でしかないものになる。それに対して、おのずと見えてくるとは、私たちが心を開いて自然や外界(人間や出来事をも含めて)に接するとき、つまり視覚の独走にまかせずに五感のすべてを生かして共通感覚的に接するときに、ものが豊かな多義性をもって現れる事なのである。そしてこの場合、実は私たちの身体=精神は、一方的に受動的なのでは決してなく、想像力―これは昔から共通感覚に相応ずるものとみなされている―の働きによる自然や外界への問いかけが、すでに行われている。そのような私たちの身体=精神と自然や外界との好感・対話のうちに、ものが豊かな多義性を持っておのずと見えてくるのである。(遍歴―知識の内面化)」

。。。通常のレポもそうだけど、これから卒論に入ろうという段階でこのことを念頭においておくのはとても意義あることに思えます。いやそれ以前に、通常の読書なんかでもこれは当てはまるように思う。先日『政府は必ず嘘をつく(堤未果角川SSC新書)』を読んでいて思ったのが、これって突き詰めていけば、Mサンデル先生の正義の講義に行き着くよなぁってこと。学問はどこかで必ずつながっていることの再認識であり、Aという方向からのみ見ていたのでは見えない死角がたくさんあって、BやCという方向からも見て見なければ本質は見えてこない。いつも行く図書館への道が、Y字路の逆側から見るとまるで違った景色に見えたりするが、それは眼前に広がる景色の一部しか見ていないから―木を見て森を見ず―の状態になっているだけで、全体像としてみてみたらなるほどと思えたりする。同書では、『ハーメルンの笛吹き男』の著者(阿部謹也)が、同書を書くにいたる際に、氏が何の気なしにページを読んでいて、背筋に電気が走るのを感じた体験を綴っていた。これはものすごい出会い(知との運命の出会い)だと思う。そんなことをぼんやりと思いながら読んだページだった。

「<知の旅>にとっても同行者の有無やあり様は、なかなか大きな問題である。というより、実際の旅について見られたことは、ほとんどそのまま<知の旅>においてもいうことができる。すなわち、<知の旅>においても、旅はなによりも冒険と探検と自己解放とをめざしたものである。だから、<知の旅>において自己の問題として自分ひとりでやらなければならないことがあるのは当然である。が、それだけでは十分とはいえない。さらにそこには、大局的にいって同じ方向へと歩む同行者たち、とくに、よき理解者であると同時にきびしい批判者であるような同行者たちが、どうしても必要である。よき理解者がいなければ、多くの困難が待つ知の冒険をくじけずに続けて行く事は難しい。また、厳しい批判者がいなければ、ひとは得てして自分を見失いやすく、自己満足に陥りやすいわけである。(同行者―もうひとつの眼)」

。。。確かに頷ける。自分のみではやはり「わかったつもり」に陥りやすいといえるかもしれない。だから、同胞で互いに確認しあうPeer Evaluation、さらには自分よりもっと知識・経験の豊富なもの―教員など―の意見は重要に思う。(その意味でレポにいっぱい好評下さる先生はありがたい!)知もそうだし、人生でも一人よりは気の合うパートナーがいたほうが良い旅ができるのと同じだね。

まだまだ色々と面白いところはあった(例えば、日本語の「面白い」と英語の「interesting」の意味の違いとか)けど、長くなりすぎるのでここで止めておこう。そして気になるところはたびたび読んで身体に染み込ませていけばいいやって思ったりしている(*゚▽゚*)

2013.3.10 著者のお一人である山口昌男先生がお亡くなりになったそうです。ーフィールドワークに基づく「中心と周縁」などの独自の理論で幅広い分野に影響を与えた。学問領域の枠を超えて日本の思想、文化をリードし、「ニューアカデミズム」にも大きな影響を与えた。(日経朝刊2013.3.11)ー
ご冥福をお祈りします。