lalala sunshine

〜慶應文学部を通信教育過程で卒業しました〜

ジョルジュ・サンド『愛の妖精』(19世紀の仏文学)

18〜19世紀欧州―特にフランス―の歴史フェチであるという理由から、専門科目の仏文学はやってみようと思っていた。ところが、もともとあまり文学の素養がないため、レポート課題に愕然・・・。設題にある2問のうち、「テオフィル・ゴーチエの『モーパン嬢』」より、「ジョルジュ・サンドの『愛の妖精』」を選んだのは、ただ単に『モーパン嬢』が上下2巻あるのに対し、『愛の妖精(La Petite Fadette)』は1冊にまとまっているという消極的な理由からであった。(先生ごめんなさい!)

ところが、これがおもしろいのだ。いうならば、古典&フランスバージョンの漫画『タッチ』という感じである。
ストーリーは、主人公の美しい双子兄弟とやがてその弟と結ばれることになる女の子の間の成長と感情の変化がつづられるという結構ありふれた話ではあるものの、19世紀フランス中部の田園風景の描写が加味されることで、独特の美しい世界が描かれている。最初の気の進まなさはなんだったのだろうというくらいに一気に読みきってしまった。なお、あとがきによれば、原題タイトルの "La Petite Fadette" は、主人公の女の子の名前―ファデット―をそのままとったものである。ファデットはいたずら好きの妖精の名にちなんでおり、三人の若い男女を操って目覚しい変化をとげさせる<愛の妖精>の意味を同時に含ませているらしい。

作者のジョルジュ・サンドは、ナポレオン・ボナパルトが栄華を誇っていた1804年に生まれ、激動の時代を生きた。若くして男爵と結婚し、二人の子供をもうけたもののその結婚生活はあまり幸せではなかったようだ。ジャン・ジャック・ルソーを敬愛し、華やかな恋愛歴をもつ(後にはあのショパンとも愛人関係にあった)という彼女は、男装の麗人としても知られている。(まるでオスカルのよう!)1876年に亡くなるまで、共和制と王政復古と革命が入れ子となった激動の時代を(おそらく当時としてはかなり無謀な行為であるはずの)自分の意思に忠実に生きた、ある意味幸せな女性であったともいえる。なお、彼女は今では19世紀を代表する女流作家となっているという。

実は同書の要となる主人公「ファデット」は、サンド自身の少女時代がモデルとなっているらしい。そして、彼女が愛したフランス中部ベリー地方の忠実な描写がされているという。彼女自身の歴史とフィクションが入り混じった1冊であるといえるだろう。